基礎TOPICS Vol.53
EAZETの杭抜き工事および既存杭への対応について
近年の建て替え工事では、地中に残置された既存杭に頭を悩ませる事例が増加しております。残置された既存杭は、新設杭打設時の地中障害物となり、
土地譲渡・返還の際の目視できない瑕疵にもなります。また、新設杭打設時に既存杭に対して適切な処置を行わないと、設計面・施工面において大きなトラブルの要因ともなります。
今回は、EAZET工法の杭抜き工事の概要およびEAZET打設時の既存杭への対応方法についてQ&Aでご紹介いたします。
一般的な杭抜きとEAZETの杭抜きの違い
一般的な杭撤去工事(ケーシング縁切引抜工法)では、削孔にケーシングが使用されることが多いです。既存杭の杭頭にケーシングをかぶせて削孔し、地盤と既存杭との縁を切り、引き上げます。
それに対して、EAZET工法は基本的にケーシングを用いることなく、逆回転で容易に撤去できることが特徴です。
また、一般的な杭抜き工法と比較して工程が短く、コストが安いことから仮設構造物や借地で多く活躍しています。
〇杭撤去工法の一例【ケーシング縁切引抜工法(リーダー式、アボロン式)】

【出典】総合土木研究所:既存杭の撤去・埋戻し方法とその影響を受ける新設杭の設計・施工,p25,(2022)
〇直接引抜工法(EAZETの杭抜き)

※EAZET引抜時の注意点
●杭頭部に回転用ピースを取り付ける必要があるため、お打ち合わせにより施工方法の決定が必要です。
●状況に応じて杭頭周囲の鉄筋の切断や鋼管上部の切断等の下準備をお願いする場合があります。
●施工機械が杭芯位置に寄り付くことが出来るよう、整地をお願いいたします。
●引き抜いた杭体の処理(清掃、集積含む)について、元請様にて実施頂くようお願いいたします。
使用年数が定められた基礎への適用(系統用蓄電池など)
使用年数が定められた系統用蓄電池などは、建設する際に電力会社から事業者に対して土地貸付を行い、蓄電所を運用する形態が多く見られます。 系統用蓄電池のような基礎などは、将来的な土地の返還も考慮した際、容易に引抜回収可能なEAZETが有効です。

電力会社による系統用蓄電池の募集フロー(例)


系統用蓄電池のポイント
〇電力系統や再生可能エネルギー発電所等に接続する蓄電池
〇住宅用と異なり、変電所より前の段階に接続される
〇再生可能エネルギーの出力変動に応じて柔軟に充電・放電が可能
杭撤去後の施工に関するQ&A
Q1 設計後、既存杭が残置されていることが分かりました。新設杭の施工は可能でしょうか?
→以下の情報を確認し、施工可否の判断をします。
①既存杭の種類、施工方法、杭仕様(長さ、径)および配置
②掘削による杭頭深度、位置の特定 ※既存杭の実際の位置が図面と相違ある可能性があるため


Q2 既存杭の撤去を検討しています。どのようなことに留意すればよいでしょうか?
→まずは、撤去せずに杭を配置、例えば既存杭と干渉しないような新設杭の配置が可能かの検討をお願いします。どうしても撤去が必要な場合は以下の点に留意が必要です。
①撤去・埋戻し箇所の原地盤との強度差
撤去・埋戻し箇所の強度が原地盤と大きな差がある場合には、新設杭の傾斜等施工の支障となる
場合があります。また強度が原地盤より小さい場合は、新設杭の水平・鉛直性能への影響が懸念されます。
②撤去・埋戻し箇所周囲の地盤の緩み
杭撤去時に孔壁の崩壊や、杭引抜時の負圧の発生等により周辺地盤が緩み、新設杭の水平・鉛直性能へ
の影響が懸念されます。
Q3 既存杭を撤去して新設杭を施工する場合、既存杭の情報は何が必要でしょうか?
→既存杭を撤去した場合、新設杭の設計・施工への影響を検討するためには以下の情報が必要となります。
①撤去する杭の仕様、配置(施工方法、材質、径、位置、深さ)
②撤去工法(直接引抜工法、縁切引抜工法、粉砕撤去工法)、具体的仕様(ケーシング径、深さ等)
③埋め戻し方法(埋戻し材料、充填・攪拌方法)埋戻し部の施工管理結果、強度管理結果
なお、既存杭に関して土地所有者、設計者等が共通の認識に基づいて情報を引き継ぐことが重要です。
建築基礎・地盤技術高度化推進協議会から「既存杭の利活用・処理における情報表示ガイドライン」が提案されており、こちらが参考になります。
ニュースリリース (all-foundations.org)
Q4 既存杭の撤去孔がある現場で設計上留意することはありますでしょうか?
→既存杭を撤去した場合には、Q2に示した留意点を考慮して適切な支持力の低減が必要となります。
適切な支持力の低減に当たっては、撤去孔の埋戻し部やその周辺地盤で地盤調査を実施する等、
定量的な評価を行うことが望ましいといえます。


【出典】 総合土木研究所:既存杭の撤去・埋戻し方法とその影響を受ける新設杭の設計・施工,pp129-130,(2022)